地元の人は言う——「自分の家に夕日が落ちる」

丘の上から海辺を望むと、三角の屋根が幾重にも続く町並みが見えた。

「妻入りの街並みが3.6㎞続いており、これは日本一の長さといわれています」と『道の駅「越後出雲崎天領の里」』の支配人・嶋野仁(ひとし)さん。

佐渡(さど)の金銀の荷揚げ港で、北前船の寄港地でもあり、北国街道と三国街道の宿場町でもあった出雲崎を、江戸幕府は要衝地とみなして直轄地に。江戸時代を代表する禅僧・良寛が生まれたのも、この町の回船問屋だ。

妻入りの街並み。点在する「出雲崎よもやま話」の説明板を読みながら歩くのが楽しい。
妻入りの街並み。点在する「出雲崎よもやま話」の説明板を読みながら歩くのが楽しい。
妻入りの街並み展望広場から。
妻入りの街並み展望広場から。
良寛生誕の地には良寛堂が。
良寛生誕の地には良寛堂が。

越後一の人口密度を誇った当時に比べ、いまの出雲崎は静かで穏やかな雰囲気。でも、近年は新たな施設がちらほら。

隣の柏崎に移住した中野賢一さんは2023年末、『出雲崎レトロミュージアム』を開いた。

「ここで開業したのは、出雲崎の子育て支援政策に共感したから。展示している昭和の玩具を、多くの子どもに見てほしいんです」

妻入りの街で今年、ランチコースメインの『たわい』を開いたのが岩田知里さん。

「海だけでなく山も近いから山菜やタケノコもすぐ手に入るんです」

季節の食材で彩られるコースは、見た目にも美しい。上品な味つけの中に旨味・酸味・苦味・さわやかさなどさまざまな風味を感じ、眼福と口福(こうふく)で満たされる。

『道の駅「越後出雲崎 天領の里」』の前で海産物などを売るおばちゃん。
『道の駅「越後出雲崎 天領の里」』の前で海産物などを売るおばちゃん。
出雲崎漁港では15時30分からセリを開始。関係者に配慮し、荷捌(にさばき)所の外からなら見学可能。 
出雲崎漁港では15時30分からセリを開始。関係者に配慮し、荷捌(にさばき)所の外からなら見学可能。 

2022年、道の駅の前に『麺処 いずも屋』を開いた宮崎義崇(よしたか)さんは、奥さまが出雲崎の出身だ。
「妻から『むかしより町に元気がなくなっている』と聞き、活性化の一助になれば、と開業しました」

イタリアン出身ながら、地元の人も通いやすいようラーメンで勝負。出汁にリンゴとトマトを加え、少しマイルドに仕上げたあっさり生姜(しょうが)醬油らーめんが気に入り、週3で通う町民も!

宮崎さんに「今日は佐渡島が見えるから夕日もきれいだろう」と聞き、夕凪(ゆうなぎ)の橋へ。視界をさえぎるものがなく、水平線に日が落ちるときはジュッと聞こえそうなほど、朱色が濃い。長岡から撮影に来た男性は「ここが一番の夕日スポット。出雲崎の夕日は世界一大きいという人もいますよ」。

世界一大きいというのは大げさかどうか——。ぜひ出雲崎に行って、自分の目で確かめてほしい。

『麺処 いずも屋』の隣で営業する『GELATO TRE IzumozakI(ジェラート トレ イズモザキ)』。笹だんごを意識したよもぎあんこと、マスカルポーネハニーナッツのジェラート。ダブルは490円。
『麺処 いずも屋』の隣で営業する『GELATO TRE IzumozakI(ジェラート トレ イズモザキ)』。笹だんごを意識したよもぎあんこと、マスカルポーネハニーナッツのジェラート。ダブルは490円。
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『たわい』麗しのランチコースで季節を謳歌

ランチコース「水」3000円は甘味付き。
ランチコース「水」3000円は甘味付き。
「蔵のひととき」(ランチに1500円追加)では,茶室で3服ほどお茶を淹(い)れてくれる。
「蔵のひととき」(ランチに1500円追加)では,茶室で3服ほどお茶を淹(い)れてくれる。
岩田さん(右)と竹部さん。
岩田さん(右)と竹部さん。
推定築140年の民家を改修。
推定築140年の民家を改修。

月ごとに変わるランチコースは、地元食材と色みで季節を感じさせてくれる。この日は、山菜のアチャールやハーブと天かすのおむすびなどで新緑を表現。「夏はモモなどの果実、長岡の夏野菜なども盛り込む予定です」と岩田知里さん。竹部雄貴さんが担当する店舗内店舗「茶(さ)に逢(お)う」では、通常の喫茶メニューに加え、蔵を改装した茶室でもお茶を提供。

☎0258-80-1247
10:00~16:00(食事は11:00~14:30LO)、不定(主に火・金・土)休
新潟県出雲崎町尼瀬77-1
JR越後線出雲崎駅からバス9分の良寛堂前下車、徒歩15分

『麺処 いずも屋』隣町からインスパイアを受けた出雲崎流とは

新潟県産小麦で製麺した、あっさり味玉生姜醬油らーめん980円。
新潟県産小麦で製麺した、あっさり味玉生姜醬油らーめん980円。
店主はイタリアン出身。その技術を生かした限定麺も人気を博している。
店主はイタリアン出身。その技術を生かした限定麺も人気を博している。

長岡名物・生姜醬油ラーメンをアレンジし、出雲崎流を考案。出汁に鶏ガラ・豚ガラと煮干し3種を加えるほか、具材に磯のりをのせることで海辺の味わいを表現。奥深い出汁に生姜のキリッと感、自家製麺のパツモチ食感がクセになる。

11:00~14:00(金・土は17:30~21:00も営業)、月2回ほど不定休
新潟県出雲崎町尼瀬121
JR越後線出雲崎駅からバス9分の良寛堂前下車、徒歩13分

『出雲崎レトロミュージアム』実際に遊んでOKの懐かし玩具がずらり

手前は昭和世代感涙、エポック社の対戦型アナログゲーム。奥はプレイ可能なアーケードゲーム。
手前は昭和世代感涙、エポック社の対戦型アナログゲーム。奥はプレイ可能なアーケードゲーム。
駄菓子屋に置かれ、子どもを夢中にさせた10円ゲーム機。
駄菓子屋に置かれ、子どもを夢中にさせた10円ゲーム機。
1960年代の貴重なブリキ玩具。
1960年代の貴重なブリキ玩具。

館長のレトロ玩具コレクションから、約2000点を展示。ブリキのおもちゃやソフビ人形をはじめ、駄菓子の販売、ハンバーガー自販機など、すべてが昭和! ショーケース以外の玩具やファミコンなど、手に取って遊べるのがうれしい。

☎0258-89-7749
10:00~16:00、水休
600円
新潟県出雲崎町大門869-5
JR越後線出雲崎駅から徒歩6分

『夕日食堂 SHi-ON(しおん)』新鮮地魚が並ぶ定食を堪能!

この日はヒラマサの刺身、巨大ホッケのフライなどが並んだ出雲崎定食1700円。
この日はヒラマサの刺身、巨大ホッケのフライなどが並んだ出雲崎定食1700円。
店長の近藤智美さん(中央)ほか、元気なスタッフたち。
店長の近藤智美さん(中央)ほか、元気なスタッフたち。

魚の卸売業を営むヤママス近藤商店が、おいしい地魚を食べてほしいと開業。新潟市や出雲崎の市場から仕入れ、隣の加工場でさばいて提供する魚介は新鮮そのもの。フライと刺身がセットの出雲崎定食などで、その味を堪能したい。

☎0258-78-4430
10:00~14:00頃(魚がなくなり次第終了。夜は要事前予約で営業)、火休
新潟県出雲崎町鳴滝町221
JR越後線出雲崎駅からバス10分の出雲崎車庫下車、徒歩8分

『道の駅「越後出雲崎 天領の里」』金銀の荷揚げで潤った町の歴史を深掘り

時代館では3分の2サイズで復元したお奉行船や、本物の千両箱を展示。
時代館では3分の2サイズで復元したお奉行船や、本物の千両箱を展示。
2個セットで販売の親子金魚の紙風船385円。
2個セットで販売の親子金魚の紙風船385円。
敷地北西側に伸びる夕凪の橋は夕日の撮影スポット。
敷地北西側に伸びる夕凪の橋は夕日の撮影スポット。

併設の時代館では、佐渡からどのように金銀を運んだかなど、当時の歴史を音や光の演出を交えて解説。物産センターには国内で唯一、手作りをする磯野紙風船製造所の紙風船や、さざえの炊き込みご飯の素1400円などの土産が並ぶ。

☎0258-78-4000
9:00~17:00(レストランは11:30~14:30LO・14:30~16:30LO、時代館は9:00~16:30受付〈12月~3月上旬は10:00~15:30受付〉)、第1水(11~3月は毎週水)休
新潟県出雲崎町尼瀬6-57
JR越後線出雲崎駅からバス9分の良寛堂前下車、徒歩14分

取材・文・撮影=鈴木健太
『旅の手帖』2024年7月号より

2014年から“ワインの郷”を全面的に打ち出し、新たなワイナリーやワイン店も増えている山形県上山市。盆地で育まれたブドウで醸すフレッシュなワインをレトロな温泉街で楽しむと、おいしさもひとしお!
カツオやメカジキ、サメが全国屈指の水揚げ量を誇る宮城県気仙沼。東北が誇る水産都市へ赤いカツオ刺しとツツジを楽しみに出かけたら、あの震災から13年、着実に再出発へと歩み続ける人々や風景と出会うことができた。