「名古屋発2泊3日、匠の技にふれる民藝どっぷり旅」のルートはこちら!
【1日目】
名古屋駅→東海道本線・高山本線→高山駅(泊)
【2日目】
高山駅→高山本線→富山駅…高岡駅→城端(じょうはな)線→城端駅(泊)
【3日目】
城端駅→城端線・高山本線・東海道本線→名古屋駅
【1日目】名古屋駅→高山駅 人気の町・高山で美しい工芸品と出会う
旅の最初の目的地は高山。
城下の商人町であった高山では、江戸時代に多くの文化が育まれた。その一つが飛驒高山を代表する伝統工芸品・飛驒春慶(しゅんけい)。
『山田春慶店』を訪ねると、美しい琥珀(こはく)色の漆器が並んでいた。「飛驒春慶は漆が透けて木目が見えるので、良質な木材を選ぶことが大切です」と店主の山田英俊さん。飛驒の豊富な木材と職人の高い技術に支えられる漆器は、時間が経つと風合いが増すのも魅力だ。
【高山駅】『日下部(くさかべ)民藝館』江戸時代の豪商の暮らしを偲ぶ
代官所の御用商人として栄えた日下部家。明治12年(1879)に飛驒の名棟梁が江戸時代の建築様式で、当時の建物を忠実に再現した。土蔵も展示室として開放し、日下部家伝来の渋草焼などの美術品や日常で使われていた民藝品を公開。
☎0577-32-0072
10:00~16:00、無休(11〜2月は火休)
1000円
岐阜県高山市大新町1-52
JR高山本線高山駅から徒歩18分
【高山駅】『山田春慶店』琥珀色に輝く工芸品をお土産に
透明感ある琥珀色の透漆(すきうるし)を使い自然の木目を生かした飛驒春慶を、職人が一つずつ手塗りで制作。現代の生活に合わせた、店オリジナルの商品も数多い。持つと驚くほど軽く、使い勝手のよさや丈夫さにも職人技を感じられる。
☎0577-32-0396
10:00~17:00、不定休
岐阜県高山市大新町1-111
JR高山本線高山駅から徒歩20分
【高山駅】『御食事処 うま宮』地元素材を大切に、郷土の味でもてなす
高山出身の宮ノ下さんが退職後に夫婦で始めた店。メニューには飛騨牛や朴葉(ほおば)味噌、高山ラーメン、五平餅など地元の名物がずらり。自家農園で無農薬栽培した野菜や米、近隣で採れた山菜をたっぷり味わえるのもうれしい。
☎090-4110-2539
12:00~19:30LO、不定休
岐阜県高山市下一之町89
JR高山本線高山駅から徒歩16分
【2日目】高山駅→城端駅 彫刻師の技にふれ、土徳の精神が息づく民藝館へ
2日目は列車を乗り継ぎ城端へ、さらに車で移動し井波を訪れる。
井波は、日本一の彫刻技術を誇るとされる井波彫刻の町。中心を貫く八日町通りを歩くと、軒を連ねる彫刻工房から木槌の音が聞こえてきた。井波彫刻では荒彫りから仕上げ彫りまで、200本以上のノミや彫刻刀を使うこともあるのだとか。『黒髪庵(くろかみあん)』で木のぐい呑みづくりを体験すると、繊維の向きや堅さがさまざまな天然の木を彫る難しさがよくわかる。
「割れてしまってもその風合いを生かしながら、木彫りを楽しんで」と職人さんからアドバイス。瑞泉寺の堂宇に施された精緻な彫刻を眺めると、技術の高さを身にしみて感じた。
この日の夜は『善徳寺 杜人舎(もりとしゃ)』に宿泊。棟方志功(むなかたしこう)が足繁く通い、宗悦が62日間滞在して民藝思想の集大成となる論文『美の法門』を執筆した善徳寺は、民藝の聖地ともいえる場所だ。
宿では宗悦が名づけ砺波地方に伝えられた、土徳(どとく)の思想を大切にしているそう。「土徳とは厳しくも豊かな環境のなかで、人々が自然と一緒につくりあげてきた土地の品格や精神風土のこと。宗悦は土徳に満ちた砺波の暮らしに、民藝思想を見出したようです」と代表の林口砂里さん。貴重な民藝品に囲まれた静謐(せいひつ)な空間でひと晩過ごし、精神が研ぎ澄まされたような感覚に。
【城端駅】『うなぎ南幸(なんこう)』 炭火が香ばしいうなぎを定食で
地元で120年続く鮮魚店の5代目・南真司さんが開いた。うなぎは蒸さずに炭火でパリッと焼き上げる。脂がほどよい小ぶりのものを仕入れており、甘めのタレと好相性。南砺産大豆をすりつぶした呉汁(ごじる)と味わうのも特徴的。
☎0763-62-2727
11:30~14:00(夜は予約のみ)、不定休
富山県南砺市城端417-1
JR城端線城端駅から徒歩12分
【城端駅】『黒髪庵』彫刻師の技にふれる、木のぐい呑みづくり体験
浄蓮寺の風情ある境内に立つ『黒髪庵』で、ぐい呑みづくり体験ができる。彫刻師の指導のもと、ノミや木槌など本格的な道具を使って木を彫る難しさとおもしろさを実感。近くの若駒酒造場に完成品を持って行けば、地酒の試飲を楽しめる。
☎0763-62-1201(南砺市観光協会)
10:00~・11:30~・13:00~・14:30~・16:00~
(2名〜、3日前の16:00までに要予約)、無休
3000円
富山県南砺市井波3609
JR城端線城端駅から車12分
【城端駅】「瑞泉寺」井波彫刻が生まれた圧巻の伽藍(がらん)が立つ
江戸時代後期、ここで京都の御用彫刻師が、井波の宮大工に伝えた寺院彫刻が井波彫刻の始まり。当時の彫刻が残る山門や篭(かご)彫りという高度な技法が使われた太子堂の手挟(たばさみ)、獅子の子落としの彫刻のある式台門など見どころ多数。
☎0763-82-0004
9:00~16:30、無休。500円
富山県南砺市井波3050
JR 城端線城端駅から車14分
【城端駅】『善徳寺 杜人舎』土徳の精神が息づく泊まれる民藝館
宗悦の愛弟子であり、富山の建築家・安川慶一が設計した研修道場を改修し宿に。客室にも棟方志功や濱田庄司らの作品が飾られた唯一無二の空間だ。カフェや民藝ショップ、土徳の講座などを開催する講堂も備えている。
☎0763-77-3732
1泊朝食1万5000円~
部屋数:6室
富山県南砺市城端405 城端別院善徳寺内
JR城端線城端駅から徒歩12分
【城端駅】よくばりさんはここも!
棟方志功ゆかりの光徳寺
先々代住職と棟方志功に親交があった光徳寺では、数多くの作品を所蔵展示している。寺で一気に描き上げたという迫力ある襖絵「華厳松」(写真)は必見。
☎0763-52-0943
金~月曜・祝日の9:00~17:00、500円
JR城端線城端駅・福光駅から車6分
お土産にも。城端絹は「松井機業」で
450年の歴史をもつ城端絹を現在、唯一受け継ぐ「松井機業」。ショールームでは枕カバーやタオル、日傘など絹を使った自社製品を販売。
☎0763-62-1230
ショールームは13:00~17:00、土・日休
城端駅から徒歩20分
【3日目】城端駅→名古屋駅 和紙など民藝を感じられる町を歩く
最終日は八尾(やつお)和紙で知られる八尾へ。
八尾和紙に魅了された吉田桂介氏が創業した『桂樹舎』では、いまでもむかしながらの手漉きの技法で和紙を製造している。吉田氏は宗悦とも交流を重ねて八尾和紙の普及に努め、型染め和紙が誕生したという。いまでは八尾和紙の代名詞ともいえる型染め紙は、鮮やかな色彩と高いデザイン性で若い人にも人気なのだ。
民藝が人の手によって守られ、時に形を変えながら大切に継承されていることを実感した3日間の旅。9月に行われる「おわら風の盆」で活気づく八尾の町も見にきたいな……と、早くも次の旅のプランを頭に浮かべながら家路に就いた。
【越中八尾駅】『山元食道』民藝を感じながらランチタイム
吉田桂介氏に出会い民藝の世界に引き込まれた店主の山本武良さんが、八尾和紙や漆など日本古来の素材で店を作り込んだ。母の玉子さんが野菜や山菜、味噌などすべて地元産にこだわって作るやさしい料理は、まさに八尾のおかあさんの味。
☎0764-55-2209
ランチは土・日の11:30~14:00
ディナーは5名以上~(予約のみ)
富山県富山市八尾町鏡町1000-10
JR高山本線越中八尾駅からバス6分の上新町口下車、徒歩2分
【越中八尾駅】『 桂樹舎 和紙文庫』紙の魅力を発信する珍しい紙の工芸館
八尾和紙の伝統を継ぐ桂樹舎。その隣に立つ施設では、紀元前のパピルスをはじめとした世界の貴重な紙や、紙で作られた調度品など、紙をテーマに民藝品・工芸品を展示。廃校となった八尾の小学校を移築した建物も趣深い。
☎0764-55-1184
10:00~17:00、月(祝日の場合は翌日)休。550円
富山県富山市八尾町鏡町668-4
JR高山本線越中八尾駅からバス6分の上新町口下車、徒歩3分
取材・文=桑野詠子 撮影=津久井珠美
『旅の手帖』2024年7月号より