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【津山線(岡山~津山間)】時を止めた木造駅舎の宝庫

岡山から津山線、因美線を乗り継ぐ1泊2日の旅に出た。目的は懐かしい木造駅舎を訪ねること。両線とも鉄道開業当初からの古い木造駅舎が数多く残されている。

まずは津山線に乗車。ホームで発車を待つのは、国鉄型ディーゼルカーのキハ47形。津山線は、国鉄型車両と木造駅舎の組み合わせが見られる、貴重な路線になった。

国鉄型車両がこんなにも!

岡山駅の北北東約600mに位置する車両基地(後藤総合車両所岡山気動車支所)。津山線・吉備(きび)線を走る車両が多数集う。
岡山駅の北北東約600mに位置する車両基地(後藤総合車両所岡山気動車支所)。津山線・吉備(きび)線を走る車両が多数集う。
亀甲(かめのこう)駅に入るキハ47形。朱一色の塗装はタラコ色と呼ばれる。
亀甲(かめのこう)駅に入るキハ47形。朱一色の塗装はタラコ色と呼ばれる。
津山線を走るキハ47形の車内。天井には国鉄時代からの扇風機が残る。
津山線を走るキハ47形の車内。天井には国鉄時代からの扇風機が残る。

普通列車で約40分の建部(たけべ)で下車。「古い駅だからねぇ」と、地元の方に声をかけられた。駅の開業は津山線開通から約2年後の明治33年(1900)。地域住民の請願で駅が設置されたのだという。待合室の片隅に置かれた掃除用具や、花瓶に生けられた生花に、ほっこりとした気持ちになる。

建部駅は文化財の駅舎

約124年前に建てられた駅舎は若干改修されながらも、開業時の姿を留める。国の有形文化財。
約124年前に建てられた駅舎は若干改修されながらも、開業時の姿を留める。国の有形文化財。

津山線ではほかに玉柏(たまがし)、福渡(ふくわたり)、弓削(ゆげ)、誕生寺(たんじょうじ)が開業時からの木造駅舎だ。建物自体は大幅に改修されているが、駆体は当時のもの。全体を眺めれば沿線の歴史を感じとることができる。

玉柏駅

明治31年(1898)に竣工。赤い瓦屋根をのせた駅舎は、待合室部分を残し減築されている。開業時は立派だったに違いない。
明治31年(1898)に竣工。赤い瓦屋根をのせた駅舎は、待合室部分を残し減築されている。開業時は立派だったに違いない。

弓削駅

明治時代に建てられた駅舎は、大きく張り出した軒が駅舎の周囲を囲んでいるのが特徴。屋根の面が二段構えの構造だ。
明治時代に建てられた駅舎は、大きく張り出した軒が駅舎の周囲を囲んでいるのが特徴。屋根の面が二段構えの構造だ。

亀甲駅

1995年に亀の甲羅をモチーフにした、ユニークな駅舎に改築。目の部分は時計になっている。
1995年に亀の甲羅をモチーフにした、ユニークな駅舎に改築。目の部分は時計になっている。
民営の中国鉄道が明治31年(1898)に開業した津山線。町なかにたたずむレンガ積みのアーチ橋が歴史を物語る(福渡〜建部間)。
民営の中国鉄道が明治31年(1898)に開業した津山線。町なかにたたずむレンガ積みのアーチ橋が歴史を物語る(福渡〜建部間)。

因美線(津山~鳥取) 寅さんが最終作で訪れた駅も

2日目は早朝の列車で因美線へ。那岐(なぎ)を訪ねたのち、折り返して美作滝尾(みまさかたきお)を訪問。ここは山田洋次監督が気に入り、『男はつらいよ 寅次郎紅の花』のロケに起用された駅である。昭和3年(1928)に建てられた駅舎は窓枠も木製のままで、寅さんがいまにもフラリと現れそうだ。

岡山・鳥取県境の山を越える因美線。急坂、急カーブで慎重な運転が続く。
岡山・鳥取県境の山を越える因美線。急坂、急カーブで慎重な運転が続く。

那岐駅

高い位置にあるホームと駅舎を結ぶ階段の屋根も木造で味わい深い。階段や待合室には因美線開業を報じる新聞記事を掲示。
高い位置にあるホームと駅舎を結ぶ階段の屋根も木造で味わい深い。階段や待合室には因美線開業を報じる新聞記事を掲示。

寅さんも最終作で訪れた美作滝尾駅

1995年公開の『男はつらいよ』シリーズ第48作のロケ地に選ばれ、ファーストシーンに登場。国の登録有形文化財。
1995年公開の『男はつらいよ』シリーズ第48作のロケ地に選ばれ、ファーストシーンに登場。国の登録有形文化財。
駅の外観、内部とも昭和3年(1928)の竣工当時から変わらず、時間の流れが止まったようだ。
駅の外観、内部とも昭和3年(1928)の竣工当時から変わらず、時間の流れが止まったようだ。
清々しい青空の下、智頭(ちず)へ向かう下り列車が到着。
清々しい青空の下、智頭(ちず)へ向かう下り列車が到着。

いったん津山に戻り、お昼前の列車で知和(ちわ)へ。出入り口扉も窓枠も木造で、駅が開業した昭和6年(1931)当時のまま。きっぷ売り場のカウンターや、待合室のベンチは、人々が触れることで自然に磨かれ、淡い光沢を放っている。いまは時を止めたような無人駅だが、随所に掌(たなごころ)のぬくもりが感じられる。

知和駅

昭和6年(1931)竣工。改修されていないむかしながらの駅舎。昭和初期の小駅舎は鉄道省による標準図をもとに設計された。
昭和6年(1931)竣工。改修されていないむかしながらの駅舎。昭和初期の小駅舎は鉄道省による標準図をもとに設計された。

次に乗る予定の列車が来るのは約3時間半後。隣の美作河井駅までは徒歩移動とした。ハイキング気分で歩くこと約1時間、山の中腹にポツンと美作河井の木造駅舎が見えてきた。背景の山並み、集落のたたずまいと相まって、その凜々しい姿に胸を打たれた。鉄道のある、日本の原風景と出会えた気がした。

美作河井駅

山あいの駅。構内の外れには、ラッセル車などを方向転回した転車台が。土中に埋もれていたものを2007年に有志が掘り起こした。
山あいの駅。構内の外れには、ラッセル車などを方向転回した転車台が。土中に埋もれていたものを2007年に有志が掘り起こした。
nottekita
【なつかしの列車】キハ47形
ローカル線向けのディーゼルカー・キハ40形のなかで、都市近郊用にアレンジされたタイプ。昭和52年(1977)から製造され、北海道を除く全国各地で活躍した。

津山駅で下車したら、ここにも行きたい!

圧巻の扇形機関車庫&貴重な車両が勢ぞろいの『津山まなびの鉄道館』へ

『津山まなびの鉄道館』では、蒸気機関車からディーゼルカーまで13両の国鉄型車両を展示。昭和11年(1936)に造られた車両を格納する扇形機関車庫は、旧津山機関区で使用されたもの。機関車収容線は17線あり、現存するなかでは京都鉄道博物館に次いで2番目の大きさを誇る。大規模な機関車庫の存在は、津山が古くより鉄道の要衝だった証し。

国内で一両のみの試作機関車

大馬力のエンジンを搭載した次期主力機関車として、昭和45年(1970)に1両のみ試作。貴重なDE50形ディーゼル機関車。
大馬力のエンジンを搭載した次期主力機関車として、昭和45年(1970)に1両のみ試作。貴重なDE50形ディーゼル機関車。

大馬力! 急勾配で活躍

特急形ディーゼルカーのキハ181形。山岳線用に大馬力のエンジンを搭載。電化以前の特急「やくも」にも使用された。
特急形ディーゼルカーのキハ181形。山岳線用に大馬力のエンジンを搭載。電化以前の特急「やくも」にも使用された。

SLの王者、デゴイチも!

SLを代表する”デゴイチ”ことD51形蒸気機関車。1115両造られたうち、栄えある2号機(昭和11年〈1936〉製造)を展示。
SLを代表する”デゴイチ”ことD51形蒸気機関車。1115両造られたうち、栄えある2号機(昭和11年〈1936〉製造)を展示。

【津山まなびの鉄道館】
☎0868-35-3343
9:00~16:00、月(祝の場合は翌日)休。310円
岡山県津山市大谷
津山駅から徒歩10分

取材・文・撮影=米屋こうじ
『旅の手帖』2024年5月号より