磯野貴理子
いそのきりこ/1964年、三重県南勢町(現・南伊勢町)生まれ。軽妙なトークとユーモアあふれるキャラクターでバラエティ番組を中心に活躍。俳優としても、ドラマや舞台に幅広く出演している。MCを務める『はやく起きた朝は…』は前身番組を含めると、放送30年を迎えた長寿番組。
その場で食べるカキに、ジビエのすき焼き
——ふるさとの南伊勢町で、一番好きな景色はどこですか?
貴理子 やっぱり海辺ですかね。伊勢のほうから車で山の中を南伊勢町に向かうと、高台のトンネルを抜けるんです。そこから海がぱあっと左側に広がるんですよ。
中学、高校はその道を自転車通学していたので、あの景色を見ると、ああ、地元に帰ってきたなあって思いますよね。
——ご実家のそばにも海が?
貴理子 すぐ近くにありました。子どもの頃は潮が引くと、よく祖母と貝を拾いに行きました。アサリやカキ、それから私たちが「いそもの」って呼んでいる細長い貝。カキなんかはその場でカーンと割って、ちゅるちゅるって食べるんですよ。もう、そのままの潮水で十分おいしい。
カキの五目ごはんに、お正月のすまし仕立てのお雑煮の具も、お餅と白菜とカキでした。ほかにも母がよく作ってくれたのは、シラウオの五目ごはんに、カツオの漬けを酢飯に混ぜて食べるてこね寿司。
カツオといえば、なまり節も南伊勢町の名物。いまも取り寄せたり、東京・日本橋の「三重テラス」で買ったりしています。カツオは地元では全部食べるから、血合いも大好き。
それからアワビ。むかし、母が台所でアワビを刺し身にしながら、よくちゅるっと肝を食べていたんです。大人になって、お寿司屋さんで肝を初めて食べたとき、「母はこんなにおいしいものを一人で食べていたのか!」って(笑)。
今度は、ぶよんぶよんの伊勢うどんが好きな人と
貴理子 松阪が近いから松阪牛のすき焼きや、近所の猟師さんが「イノシシ獲れたよ」って肉の塊を持ってきてくれた日は、イノシシのすき焼き。野生のイノシシは、脂がとっても甘いんですよ。
ビワやヤマモモ、柿や栗も、母がカゴいっぱいにして帰ってくると、みんなでうわ~って食べて。
もう海と山の恵みだらけよね。ありがたかったですね。
——なんともうらやましい食卓ですが、伊勢のご当地グルメのなかで食べてもらいたいものは?
貴理子 やっぱり伊勢うどんですよ。ぶよぶよの、なんじゃこりゃ!っていう太くてやわらかい麺。あのぶんよぶよが、大好き。「ぎゅーとら」という地元のスーパーには、ぶよぶよ麺とタレが売っているので、みんな家でも、おやつがわりに食べるんです。
私、麺がどうしてあんなにやわらかいのかを聞いたことがあるんですけど、お伊勢参りに来た旅人の疲れた胃にやさしく、消化がいいよう、やわらかく煮るようになったんですって。あのぶよぶよには、ちゃんと理由があるんです。ちなみに麺に絡める甘辛いタレはお店によって違うので、みんな「これが私の伊勢うどん」という味があるんですよ。
——貴理子さんの、伊勢うどんの味は?
貴理子 子どもの頃からある伊勢市の『山口屋』さんです。地元の友だちに確認したら「貴理子、『山口屋』まだあるよ」って。
ただ伊勢うどんは、苦手な人は本当に苦手なんですよ。私、2回結婚してるんですけど、2回とも旦那さんは苦手でした…。
私は好きだからいいんです! 今度、っていうか今度があるかわかりませんが、もしそういう機会があったら、伊勢うどんをおかわりするような人がいいわね。そうだ、お伊勢参りと『山口屋』さんをセットで案内して、試してみようかしら(笑)。
——ぜひ、おかわりする人と神宮へ。貴理子さんにとって、お伊勢さんはやはり特別な場所?
貴理子 南伊勢町からは車で30~40分なので、毎年、家族で初詣に行っていました。白い馬(神馬〈しんめ〉)にも会えましたし、当時はニワトリも駆け回っていましたね。
初詣で必ず買っていたのは、学業御守。私、人生一生勉強!と思っていますから。18歳で上京してからも、毎年母が神宮の学業御守を送ってくれていました。
好奇心で聞いてびっくり、神宮の砂利の秘密
——東京からお伊勢参りは?
貴理子 7年くらい前だったかな。急にお伊勢さんの空気にふれたくなって、東京から一人で行きました。梢の高い大きな木があって、風が吹いていて、砂利道を歩いているだけで気持ちがよくてね。
一人でぷらぷら歩いていたら、掃除をしている方がいらっしゃったの。でも、落ち葉を掃いてるんじゃなくて、かねの箒のようなもので砂利道を掻いてるんです。気になって「何をされてるんですか」と聞いたら、「沈んでいる砂利を浮かしてるんです」って。
——砂利を浮かす……?
貴理子 なぜかというと、お参りに来た人のじゃっじゃっじゃっという足音を聞いて、神様は「誰かお参りに来たな」って気づいてくださるんですって。砂利が踏み固められると音がしなくなるので、よく足音が鳴るように掻くと。
私、なんて素晴らしいお仕事なんだろうと思って、「ありがとうございます!」と言って、砂利を鳴らしてお参りしましたよ。
近所の子が、そんなお伊勢さんの舞女(まいひめ。一般的な神社の巫女〈みこ〉)になったなんて聞くとうれしいし、神様が食べる特別なお米作りとか、自分も携わることができたらなあって思いますよね。やっぱり地元ですから。
いつか見たいのは冬至の時期、内宮(ないくう)さんの宇治橋の鳥居から昇る朝日。まだ見たことないんです。
ん? このさえずりは? と思って見たら……
——鳥が好きで「日本野鳥の会」の会員になられたそうですね。
貴理子 あるとき、とてもかわいい鳥の声が聞こえて、なんていう鳥だろうと思って調べたら「シジュウカラ」だとわかり、それがきっかけで鳥を好きになりました。
少し前に、野鳥の会茨城支部の人たちと鳥を撮りに茨城のつくばと牛久に行ってきたんですよ。ツバメのねぐら入りといって、ヨシ原(ヨシは河川敷などで育つ約3mの草)に1万羽以上のツバメが入って、いっぺんに寝るんです。すごかったですよ~。これまでデジカメで写真を撮っていたんですが、そろそろ望遠レンズもほしいなあと思い始めているところです。
次は、北海道へシマエナガとシマフクロウを見に行きたいです。シマフクロウは絶滅危惧種なので、見かけるだけでもいい。ツルを見に釧路にも行きたいし、やっぱり鳥と旅はセットになってきますね。
貴理子 特に冬は、バードウォッチャーにとって楽しい季節なんです。木の葉が少なくて、枝に止まっている姿がよく見えるから。寒さなんて全然平気。ずっと立って見ています。鳥を好きになると、鳴き声が勝手に聞こえてくるんですよ。
今日、道を歩いていたら「え? こんな鳥の鳴き声は聞いたことない」と思ってパッと見たら、保育園の先生が散歩中の子どもたちにぴっぴって笛を吹いてたの! 自分でもびっくり、笛の音まで鳥の声に聞こえちゃうんだって。また先生がきれいな音で吹くんですよ。
——わはは(笑)。そんな鳥への深い興味から中国語や韓国語、ダンスまで多趣味ですよね。
貴理子 私、知的好奇心が止まらないんです! まだまだ世の中には知らないことがいっぱい。知らなかったことを知ると、すごくうれしくて。いまトルコ語を習っているので、ベリーダンスも習い始めたんですけど、こちらは続かなかった(笑)。15年続けているのはピラティス。インナーマッスルや姿勢について、毎回先生からいろいろなことを教わっています。
——習いごとや勉強以外では、どんなことに好奇心が?
貴理子 味に対してもそう。知らない味があったら、私、絶対食べてみたくなりますから。
こないだ、テレビ番組の『はやく起きた朝は…』で[納豆に何を入れますか]という質問に、[私は牛乳を入れます]というハガキをいただいたの。え?と思うじゃない。でも、やってみずにはいられないの。
醬油と牛乳を混ぜるとだんだん泡が立ち、納豆のねばねばからとろみが出て、濃厚でミルキーなスープのようになっておいしいのっ! 感動しました。まず、やってみる。一生、勉強ですから。
——知的好奇心も刺激する愉快な番組『はやく起きた朝は…』は、2023年に30年を迎えましたね。
貴理子 30年続いているなんてびっくり。(松居)直美ちゃんと(森尾)由美ちゃんのお子さんに会うと、もう親戚みたいな気持ちになっちゃいます。私たち3人は、距離感がとてもいいんですよね。
いつもすごく気にかけているんだけど、お互いのことに踏み込みすぎない。あったかい3人をひなたぼっこするみたいに見ていただけたらなって思います。ぜひみなさん、ハガキを出してくださいね。みなさんからいただいた情報を、私みずから試しますから!
聞き手=さくらいよしえ 撮影=千倉志野
『旅の手帖』2024年1月号より
ヘアメイク=山田みずき スタイリング=繁田美千穂
ブラウス ・スカート Sia la luce 大松☎03・3663・1401
ピアス ABISTE☎03・3401・7124
パンプス 卑弥呼☎03・5485・3711