新宮市ってどこにある?
紀伊半島の南端、三重県と奈良県に接し、熊野川の河口に位置する新宮市。深い森に囲まれ、青い熊野灘を望み、古くから自然崇拝に根ざす「熊野信仰」が受け継がれている。
市内には熊野速玉大社、神倉神社、阿須賀(あすか)神社などの世界遺産が、ごく当たり前のように日常の風景に溶け込み、神代と現代が混在する不思議な町だ。
そして新宮には、①川の熊野古道がある。川の参詣道、川として世界遺産で唯一登録されているのはここだけ。②熊野古道(中辺路〈なかへち〉)の中で唯一、海が見える。③苔むした石畳や石仏が残り、神秘の国「熊野」を感じられる山の熊野古道がある。
なんと川・海・山、3つの熊野古道が楽しめる町なのだ。そんな町は新宮市だけであり、ここが新宮のすごいところ。というわけで、新宮のすごい3つを体感したい。
今回歩くのは、熊野速玉大社から熊野那智大社へ巡拝する人たちが通った中辺路ルートの一部。本日の「新宮の熊野古道ウォーク」参加者は30名ほど。2班に分かれてガイドさんと一緒に歩く。
前世の罪を浄めてくれる速玉大社
JR紀勢本線の新宮駅から町なかを歩いて、熊野速玉大社へ。熊野三山の中で、速玉大社は前世の罪を浄めるといわれている。那智大社が現世の縁を結び、熊野本宮大社が来世を救済するといわれているので、熊野三山をめぐれば、過去、現在、未来の安寧を得ると考えられているのだ。
速玉大社の境内には、ひときわ大きなナギの木が。推定樹齢1000年のご神木だ。ナギの葉は縦に細い平行脈が多数あり、主脈がない。横には簡単に裂くことができるが、縦にはなかなか裂くことができない。その丈夫さにあやかり、男女の縁が切れないようにと、女性が葉を鏡の裏に入れる習俗があったそう。現在は持ち帰る代わりに、お守りや人形などがある。
お餅であんを包み、玄米粉をかけた「熊野もうで餅」も忘れずに。熊野三山だけの限定販売で、やさしい甘みが古道ウォークのおともにもぴったり。
住宅地の道も熊野古道
熊野川河川敷には、速玉大社へ訪れる人々に向けた飲食店や鍛冶屋、宿などの「川原家(かわらや)」という簡易商店が並んでいた。川が増水すると家をたたみ、水が引くと再び組み立てられる商店を再現した川原家横丁の前を通り、新宮城跡を横目に阿須賀神社へ。
阿須賀神社は2016年に追加登録された、新しい世界遺産。熊野詣の人たちが奉納した、平安時代後期から室町時代の御正体(みしょうたい。鏡や鏡板に仏の像などを表したもの)200点近くが背後のご神体・蓬莱山から出土したことから、熊野信仰の重要な王子社であったと考えられている。また秦の始皇帝の命を受けて渡来した徐福にもゆかりが深く、徐福一行が上陸したのがこの神社の建立地なのだとか。併設の歴史民俗資料館には、小さくて愛らしい御正体がいくつも展示されていた。
この先は住宅地を歩くが、ここもれっきとした熊野古道。熊野九十九王子の一つ・浜王子にお参りをしたら、いよいよ高野坂へ向かう。
そもそも王子社、王子とは何か。当時の熊野詣は現代とは異なり、命がけの行程だった。修験者たちは道中の守護を祈るために、地元の人たちが在地の神を祀るために立てた社を「王子」として認定し、儀礼を行う場にしたといわれている。
海を眺めてランチタイム
紀勢本線の線路と並行して走る県道231号を歩いていると、しばらくは青い海がおともしてくれる。本来の熊野古道はこの下、王子ヶ浜の海岸沿いだ。
王子ヶ浜の終わりあたりで高架下をくぐり、海へと近づく。さあ、お待ちかねのランチタイム。持参のお弁当やおにぎりを食べながら、しばし休憩。私はめはり寿司の入った古道弁当を。通り過ぎる列車を見たり、海際を歩いてみたり。ここでお昼寝をしたい気分になってきた。
海絶景の熊野古道
高野坂の碑を抜けると、急に古道っぽさが出てくる。舗装された道と別れて山道へと入っていく。でも激しいアップダウンはないので、比較的楽に歩ける。
10分ほど歩くと、王子ヶ浜を一望できる絶景ポイントに着いた。みんな立ち止まって、次々に記念撮影。念仏碑や孫八地蔵、金光稲荷神社を越えたら、鯨山見跡(くじらやまみあと)へ足を延ばす。明治時代末期まで使われていた捕鯨見番所で、クジラを発見したり、全体を見渡して捕鯨の指揮をしたりする重要な場所だった。日本遺産の構成文化財の一つになっており、ここでもひとしきり青い海を堪能。
道中、「みなさんがイメージする熊野古道とどこか違うでしょ?」とガイドの福田さん。熊野古道は杉や檜が多いが、高野坂には自然林が残っているので、少し雰囲気が違うのだという。そして、そこが高野坂の大きな魅力だとも。巡礼道であると同時に生活道でもあったこの道、当時の人たちがここを歩く様子を想像すると、ワクワクしてきた。
やっぱり石畳だよね
高野坂の終盤、弁慶の力石を過ぎると、苔むした石畳が現れた。苔にちょうど日が当たり、キラキラしている。時代によって積み方が違うのもわかり、やっぱり古道は石畳だよねと改めて思う。
さて高野坂と別れて、また舗装道をゆく。三輪崎駅を抜け、海水浴場を眺めながらずんずん進む。黒潮公園を通り過ぎたら、ゴールの佐野王子跡まではもう少し。
佐野王子も熊野九十九王子の一つだが、廃社となっていまは王子跡の石碑が残るのみ。ひっそり立つ石碑の前でゴール。実はこの日、嵐のような天気で途中から雨風が強くなり、なかなかハードな行程だった。みんなよく頑張った! 約10㎞のウォーク、お疲れさまでした。
「世界遺産登録20周年記念 熊野古道ウォーク」は4月以降も定期的に開催するそうだ。次は、新宮にあるもう一つの熊野古道、大雲取越・小雲取越を歩いてみたい。
今回歩いたルート
【ウォーキングデータ】
緑のラインが今回歩いたルートです。
新宮駅(9:00発)~熊野速玉大社~阿須賀神社~高野坂~佐野王子跡(15:00着)
歩行距離:約10km 高低差:約50m
主催:新宮市観光地魅力アップ協議会(新宮市商工観光課/新宮市観光協会)
●今後の「世界遺産登録20周年記念 熊野古道ウォーク」についてはこちら
新宮市観光協会 https://www.shinguu.jp/
ここにもぜひ行きたい!
熊野川舟下り
皇族たちが熊野本宮大社と熊野速玉大社を巡拝する際に利用した、川舟下りを体験できる。『道の駅 瀞峡街道 熊野川』から乗船し、熊野速玉大社そばの権現河原まで約1時間半の川下りを。語り部が熊野の歴史や物語と一緒に、名前のついた岩や滝、神事が行われる島などの景色を案内してくれる。
☎0735-44-0987(熊野川川舟センター)/10:00~・14:30~(30分前までに要受付)の一日2便、乗船日前日の15:00までに要予約/4950円/新宮駅からバス29分の道の駅 熊野川下車すぐ
https://kawabune.info/
神倉神社
権現山の麓から熊野古道の一部である、538段の急峻な石段を上って辿り着く古社。熊野三山に祀られる熊野権現が初めて地上に降臨した伝承をもつ。ご神体・ゴトビキ岩の横は、新宮市街と熊野灘を見晴らす新宮随一のビュースポット。毎年2月6日に開催の「御燈(おとう)祭」の舞台でもある。
☎0735-22-2533(熊野速玉大社)/境内自由/新宮駅から徒歩15分
取材・文・撮影=『旅の手帖』編集部