ラーメン 一兎
じんわり染みわたる、煮干しの風味
「以前はいろんな材料を足していたけど、逆に煮干し一本だけにしたら香りがはっきりと立ったの」と笑うのは、店主の深澤佳之さん。いつでも手に入る食材で、毎日同じ味が出せるようにと、仕入れにスーパーも多用する。えぐみが出ぬよう丁寧にとった煮干しの出汁に、醤油と鶏油を合わせたスープはすっきり奥深い香味。麺とともにすすると、煮干しと醤油、小麦の香りが一体となり、ふわりと鼻腔(びこう)を抜ける。麺は市川で50年以上の歴史をもつ『早川製麺所』から仕入れる。深澤さんは、「昔懐かしい中華麺のテイストがお気に入り」と笑う。
『ラーメン 一兎』店舗詳細
らー麺 N
鶏ガラのやさしい風味に包み込まれる
店主の長沼秀聡(ひでとし)さんは、元サラリーマン。「目の前でお客さんが喜んでいる顔を見たい!」と、一念発起し、ラーメン店で修業後、2015年に開業した。6時間炊いた鶏ガラの出汁に、特製の塩ダレと合わせたスープを一口すすると、やわらかな口当たりにほっこり。最後の残り香まで鶏のやさしさに満ちあふれ、思わず頬が緩む。食感のよい麺との絡みもよく、スープと見事に調和。一気に平らげてしまう。麺は1949年創業の『菅野製麺所』から仕入れている。細麺と中太麺の間くらいの太さで、歯ごたえがよく、癖になる。ワンタンはツルンとした薄皮いっぱいに、まるまると大きな肉団子が包まれている。口中に入れると肉汁じゅわり。やけどにはご注意を。
『らー麺 N』店舗詳細
青海
旬野菜の底力を引き出すおふくろの味
店主の龍野美紗子さんが、娘2人と妹と切り盛りするのは家庭料理の店。牛肉だけはちょっと贅沢に松阪牛を。けれど、圧巻なのはカウンター上の常備菜だ。カボチャや大根の煮物は砂糖と醤油で、サツマイモは最後にレモンを加え、「素材の力を信じて」ひと晩かけて、ゆっくり味を含ませる。どのお総菜もやさしい香味が引き出され、男性や外国人客も虜に。厚削りと花がつお出汁の味噌汁にも、ホッ。
『青海』店舗詳細
La marge
ワインを愉しむ大人のビストロ
ラフな空気感は、店主の石郷岡勝(いしごうおかまさる)さん、ルミさん夫妻が醸し出す“抜け感”のせい。「うちはハレの日に似合わない」と謙遜するも、おまかせコース5280円~を予約した人が「おめでとう!」と乾杯する光景が日常だ。季節を感じる各地の産直食材を使い、繊細さと大胆さが同居する皿は、スパイスやハーブがふわっ。ワインは二人が惚れ込むナチュール(自然派)中心に、小さな醸造所の個性的なものを揃えている。例えば、イカとアナゴの前菜には、口触り柔らかな微発泡白を。「ボトルなら開栓から変化する風味を愉しめます」と、ルミさん。料理と好みに合う1本を選び、食べて飲んでを繰り返すうち、果てしなく晴れやかに。
『La marge』店舗詳細
Garten Cafe ぶ楽り
農家の14代目が始めた野菜カフェ
市川に農家レストランがあると聞くと驚くかもしれない。場所は国分の閑静な住宅地。その屋号からも、おしゃれなログハウス造りの店舗からも、ここが農家レストランだとは誰も思うまい。実は、江戸時代から続く農家が経営しているのだ。14代当主の石井一平さんが露地栽培した野菜や、ビニールハウスで育てた完熟トマトを使った料理を食べさせてくれる。シェフは奥様の久美子さん。「野菜がたくさん採れると、ついうれしくて多めに盛ってしまうんです(笑)」。ミニトマトや旬の野菜を盛り付けた、サラダ感覚のピザを考案したのも久美子シェフ。トマトジュースは絶品。完熟トマトを1時間煮詰めたことでトマトの濃厚な旨味を堪能できる。
『Garten Cafe ぶ楽り』店舗詳細
トラットリア・アルポンテ 道の駅「いちかわ」
旬の市川野菜を使ったイタリアン
2018年市川市内に、日本橋浜町の名店『リストランテアルポンテ』の姉妹店が開業した。国道298号沿いに立つ道の駅「いちかわ」に併設する『トラットリア・アルポンテ』である。2019年5月、松島正さんがシェフに就任。松島さんは本店で副料理長を務めた後イタリアに渡り、帰国後、各地のレストランでシェフを歴任してきた。いしい農園の石井一平さんなど、これからの市川の農業を支える若手農家チームの「いちかわファーム」が丁寧に育てた野菜やハーブと、イタリア産チーズや、切りたてのパルマ産生ハムなどを組み合わせた、滋味あふれる本格的なイタリア料理を廉価で提供している。市川ならではのイタリア料理を、イタリアワインと一緒に舌で鑑賞させてもらおう。
『トラットリア・アルポンテ 道の駅「いちかわ」』店舗詳細
構成=フラップネクスト 取材・文=佐藤さゆり・松井一恵・高橋健太(teamまめ)、中島茂信 撮影=オカダタカオ、山出高士、加藤熊三
『散歩の達人』2019年8月号より