宮本武蔵の父や、武家屋敷をイメージした店づくり

秋葉原駅から昭和通りを渡るとさまざまな飲食店が並んでいるが、なかでもラーメン店が目立つ。朝9時に目の前を歩いていた20代とおぼしき男性が、躊躇することなく家系ラーメンの店に入って行った。こうした朝ラー文化が定着しているのも、ラーメン激戦区らしい秋葉原の光景だ。

聖地のラーメン好きを横目に今回目指したのは、『麺屋武蔵 武仁』。麺屋武蔵といえば、都内のみで展開し現在14の姉妹店があるが、それぞれに独自の味を提供しているのが人気の理由のひとつ。

漆黒の日本家屋のような店構え。看板の横には宮本武蔵らしき人物も。
漆黒の日本家屋のような店構え。看板の横には宮本武蔵らしき人物も。

「この店は、宮本武蔵の父ともいわれる戦国時代の剣術家、“宮本(平田)武仁斎”をイメージしてるんです。だから店のデザインも武家屋敷っぽいんですよ」と語ってくれたのは、店長の橋本俊介さんだ。

新宿総本店をはじめとする数々の店舗を経て『麺屋武蔵 武仁』の店長になった橋本俊介さん。
新宿総本店をはじめとする数々の店舗を経て『麺屋武蔵 武仁』の店長になった橋本俊介さん。

外観と同様に壁や天井、床も黒で統一され、重厚感のある印象の店内だが、POPなカラーの丸イスや元気なスタッフも相まって活気がある。厨房とフロアを仕切る扉はもちろん、出入り口こそ自動ドアだが和式の引き戸のようなデザインになっている。

1席ずつパーティションが設けられ、安心して食事ができる店内。
1席ずつパーティションが設けられ、安心して食事ができる店内。

カウンターに座っていたのだが、振り返ると壁には石垣のようなものが! 細かなディティールにもこだわっているところもファンを捉えて離さない理由のひとつだろう。

椅子の後ろには武家屋敷の外壁にある石垣のような装飾が! めちゃめちゃ固そうだが、実はクッション入りでフワフワ〜。
椅子の後ろには武家屋敷の外壁にある石垣のような装飾が! めちゃめちゃ固そうだが、実はクッション入りでフワフワ〜。

武蔵の父の名を冠したこの店は、麺屋武蔵のなかでも根源ともいえる無骨な味を表現しているのだ。

100g超の肉塊“武仁肉”の破壊力たるや! 全体の7割がオーダーする武仁つけ麺の猛烈なパンチ力

『麺屋武蔵 武仁』のメニューは大きく分けてつけ麺、ら〜麺、まぜそばの3つがある。定番のつけ麺は、濃厚の度合いにより3段階から選べ、そのほか辛いスープの辛チーノつけ麺が揃う。「うちはもうほとんどのお客様が武仁と屋号のつくメニューを頼まれますね!」という橋本店長のアドバイスもあり、武仁つけ麺にすることにした。特別に厨房へ入り、ラーメンができあがるまでの様子を見せてもらった。

こんこんと炊き続けるスープ。煮え立ったあぶくからも濃厚さがうかがえる。
こんこんと炊き続けるスープ。煮え立ったあぶくからも濃厚さがうかがえる。

スープはトンコツ、トリガラ、モミジ、ゲンコツ、豚足、カツオ、サバ、煮干し、昆布などをメインにとっているトロミのあるスープ。「とくにトンコツやモミジからコラーゲンが出るので、粘度があります」と橋本店長。

武仁肉は下味をつけた豚バラ肉を強火で焼いてから蒸し、さらに柔らかく煮込んでいる。
武仁肉は下味をつけた豚バラ肉を強火で焼いてから蒸し、さらに柔らかく煮込んでいる。

もちもちしながらプリッと歯切れの良い太麺は、ほかの麺屋武蔵では食べられない特注麺だそう。つけ麺は量も多く歯応えもあるため、食べるのに時間がかかる。最後までできるだけおいしく食べられるよう、伸びにくくなっているそうだ。

武仁肉、味玉、青菜、海苔。パズルのピースを合わせるように、麺の上に具材が盛り付けられていく。早く食べたい!
武仁肉、味玉、青菜、海苔。パズルのピースを合わせるように、麺の上に具材が盛り付けられていく。早く食べたい!

橋本店長の「お待たせしました〜!」の声が本当に待ち遠しかった〜! テーブルにやってきた武仁つけ麺1230円を目の前に心拍数が上がった。だって本当に大きな肉塊なんだもの。落ち着け、まずは撮影だ。

写真の麺は並(茹でた後の重量)280gである。3.5倍(茹でた後)1kgまでは無料で増量可能だ。
写真の麺は並(茹でた後の重量)280gである。3.5倍(茹でた後)1kgまでは無料で増量可能だ。

やはり、武仁肉から手をつけるべきだろうか。箸で簡単に切れるほど柔らかく煮込まれていて、そのままかぶりつくと、甘辛く煮付けたジューシーな豚バラ肉の旨味が口の中で溶ける。脂身の部分もしつこくなくあっさり食べられるのは、「蒸して余分な脂を落としているから」と橋本店長が教えてくれた。

すごいぞ、箸で簡単に切れるほど柔らかい!
すごいぞ、箸で簡単に切れるほど柔らかい!

とろみのあるスープは動物系と魚介系がガツンときいていて濃厚だが、それぞれが融合していて旨味・風味を昇華させている。そこに力強い太麺、旨味の塊の武仁肉と合わさることにより、超絶クセになるうまさが脳に刻み込まれるのだ。

武仁肉と麺を一度にほおばると、スープに浮いたタマネギがいいアクセントになる。
武仁肉と麺を一度にほおばると、スープに浮いたタマネギがいいアクセントになる。

だが、見た目よりもあっさりと食べられる。本能のままに食べ進めてみると……うーん、インパクトだけでなく舌もお腹も満足だ。カツオと昆布でとったあっさり和風の割り用のスープで締めて、ごちそうさまでした。

スタッフに声をかけると持って来てくれる調味料で味変するのもいい。写真右から辛味、ブラックペッパー、にんにく、はちみつレモン酢。
スタッフに声をかけると持って来てくれる調味料で味変するのもいい。写真右から辛味、ブラックペッパー、にんにく、はちみつレモン酢。

歴史があり美食な街と知られる神田、神保町、浅草に挟まれた秋葉原

いつしかラーメン激戦区になった秋葉原。2009年にこの店がオープンした当初は周囲に飲食店がなく、お客さんも少なかったそうだ。都内だけに出店している麺屋武蔵は、新宿、青山、上野など要所に続々出店をしていて、秋葉原もそのうちのひとつとして立ち上がった。

オープンから掲げられるのれんからも歴史を感じる。
オープンから掲げられるのれんからも歴史を感じる。

「オープンした当初は、アキバカリー麺というメニューを出していました。でも時代とお客様の反応を見て違う味とメニュー構成にしています。これからもその時々により味も形も変化してゆくでしょう」と橋本店長。

当時は秋葉原に土地勘がなくアニメやゲームの街だと思っていたそうだが、「歴史が深くておいしいものが集まっている神田や神保町、浅草もすごく近いんですよね。海外からここを目指してくる方も多いし、いろんな文化が入り混じっていて東京の中でも特別な街だと思いますね」と、奥の深さに気がついたそうだ。そう考えると、秋葉原がラーメンやカレーなど、手頃な美食の街に進化したのは必然だったのかもしれない。

店頭の看板にて。コワモテの武蔵くんも武仁らーめんを目の前にすればニッコリ。
店頭の看板にて。コワモテの武蔵くんも武仁らーめんを目の前にすればニッコリ。

橋本店長はさらにこう語続ける。「電気街口に『麺屋武蔵 巖虎』という姉妹店もあって、どちらかというと『巖虎』はうちよりジャンク寄りなんですけど、『武仁』は大人のサラリーマンの方でもおいしく召し上がっていただけるよう塩分や脂はマイルドにしています」とのこと。秋葉原でどんなラーメンを食べようか迷ったら、2つの店を食べ比べてみるのも楽しいかもしれない。

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢