営業日は限定。プレゼン力で開いた小さなコーヒーの屋台

スクナビコナの神をデザインしたアクリルスタンドも販売している。大きさは3センチほど。

『スクナビコナ コーヒー』のスクナビコナとは、布多天神社の御祭神「少名毘古那神(すくなびこなのかみ・少彦名命)」からきている。古事記にも登場する少名毘古那神は、昔話の一寸法師の源流とも言われている。体長3センチほどの小さな神様として『スクナビコナ コーヒー』のマークも古事記に描写された衣装を参考にした姿が描かれている。

布多天神社本殿。

祭事のある毎月25日を中心に月に数回だけという営業スタイルの『スクナビコナ コーヒー』を運営するのは岸田真紀子さん。岸田さんはそのもうひとつ、展示企画運営の業務をしていて、その仕事が布多天神社と岸田さんを引き合わせた。

「何度か足を運ぶうちに、広くて立派な木がある場所でコーヒーを飲んだらどんなに素敵だろうと思いました。それで神社さんにここでコーヒーを出したいですと、コーヒーを持って提案をしました」

岸田さんはコーヒー好きで学生時代には下北沢の喫茶店でアルバイトを経験。いつかは喫茶店を開くのがその頃からの夢だった。

社会人になってからは、テーマパークのキャストとして接客の仕事をしたり、携帯通信会社で窓口営業をしたり、コーヒーの会社で広報関係を担当したりとさまざまなキャリアを積んできた。その経験があらゆる局面で生きているが、まずは行動力とプレゼン能力があったことが『スクナビコナ コーヒー』のオープンに繋がったことは間違いない。

布多天神社の宮司さんたちもコーヒーに興味を持ちはじめた時期だったという偶然も幸いした。安全面などを配慮して、営業時間外には片付けられる屋台のような店なら、とさまざまな許可や承認を経て、オープンにこぎつけたのが2021年5月だ。

カフェインが苦手な店主おすすめのおいしいカフェインレスコーヒー

岸田さんが夢だったコーヒーの店を開くに至ったのには、もうひとつきっかけがある。おいしいコーヒーを焼く焙煎士との出会いだ。

店主の岸田真紀子さん。

コーヒー会社で働いていた頃、たくさんコーヒーを飲みすぎて、実はカフェインに弱いと気がついた。好きなコーヒーも遅い時間にはカフェインレスにしようと考えたが、納得いく味わいのものはなかなかない。

ところが仕事で出向いた山口県でおいしいカフェインレスのコーヒーに出会った。それが今も『スクナビコナ コーヒー』で出している『フジヤマコーヒーロースターズ』の豆だった。

『スクナビコナ コーヒー』ではブレンドも含めて、常時9種類ほどのスペシャルティコーヒーを用意しているが、カフェインレスコーヒーもおすすめのひとつ。布多天神社にお宮参りや戌の日の安産祈願に訪れる参拝者にはカフェインレスコーヒーの無料チケットも配布していて、妊婦さんや授乳中の人に好評だ。もちろんカフェインが苦手な人たちがコーヒーのおいしさを知るきっかけにもなっている。

そしてもうひとつ『スクナビコナ コーヒー』の売りは、岸田さん自身だというからおもしろい。岸田さんはお客さんと話しながら、その人の合ったコーヒーを提案してくれるのだ。

「コーヒーが9種類あるので、最初は迷うお客さんが多いんです。『お好みはありますか?』『酸っぱい味はお好きですか?』などといくつか質問して、『では今日はこのコーヒーを飲んでみてください』と提案しています。2度目か3度目には、お客様も自分の好みがわかって、その後はずっとそのコーヒーを選ばれるようになりますね」

同じことはコーヒーと合わせて出しているお菓子でも起きている。お菓子は神社から紹介してもらった地元の和菓子店『千代富 清風堂』のもの。金平糖や梅を使った銘菓梅むらさきのほか、秋には栗蒸し羊羹が並ぶ。

ある日、「僕は栗が苦手です」というお客さんと話し、苦手なのは栗のボソボソ感だと突き止めた。とてもしっとりしているから、と栗蒸し羊羹を勧めたところ、羊羹もコーヒーもとても気に入ったとSNSに投稿してくれたそう。

自然とも共存。神社の木漏れ日の下でコーヒーを

神社の境内にベンチや簡易的なテーブルでコーヒーを飲んでもらうスタイルの『スクナビコナ コーヒー』。天気のいい日は美しい木漏れ日の下でコーヒーを飲むことができる。その代わりと言ってはなんだが、夏の暑さや周囲の生き物とも共存中だ。ちなみに岸田さんはファンがついた空調服を着て、虫除けも店に準備して夏を乗り切ったそうだ。

地元の人にとって布多天神社は、お参りや散歩の場所として大切な場所だったが、『スクナビコナ コーヒー』の営業日は、周囲の人たちの滞在時間が伸びたと神社側も感じているそうだ。祭事の日を中心とした、たまにしか出会えない営業スタイルも魅力のひとつ。自分好みのコーヒーが見つけられないと悩む人ほど、調布まで足を伸ばしてみてはどうだろうか。

住所:東京都調布市調布ヶ丘1-8-1布多天神社境内/営業時間:10:30~16:30 ※季節によって変更あり。 /定休日:不定(神社祭事開催日に営業)/アクセス:京王電鉄京王線調布駅から徒歩5分

取材・撮影・文=野崎さおり